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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)195号 判決

一 その方式及び趣旨により真正な公文書と推定される甲第一号証(再審審決の謄本)、第三号証(前審決の謄本)、第四号証(前訴訟の判決の正本)及び第五号証(上告判決の正本)によれば、請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(再審審決の理由の要点)の各事実が認められる。

二 そして、右甲第三号証によれば、前審決は、「甲第五号証(中井博の作成にかかる昭和五〇年一二月二三日付証明書)及び昭和五五年六月二六日の口頭弁論(含む証人尋問)とその調書」(第三丁裏第一三行ないし第一五行)に基づいて、「<1>昭和三九年から昭和四〇年にかけて、<2>奈良県北葛城郡新庄町北花内四七二の中井博の工場において、<3>(中略)玉葱袋を、不特定の第三者が見ることのできる状態において、検品および包装(中略)したこと、<4>上記玉葱袋の生地は、三八〇デニール中心のポリエチレンモノフイラメント糸を使つて、通称一一寸、針数四二〇本の台丸機というメリヤス機で、二:二の針抜きをして編立てたもので、単位面積内における縦向きループ列(一個ずつのループが縦方向に連続してできた縦条)の数と横糸の本数が、上記台丸機の針を抜かないで全部植えた状態で編んだものとして数えるとほぼ同数であり」(第三丁裏第一七行ないし第四丁表第一二行)、「中井博がこの種玉葱袋の編地に関する技術を本件登録実用新案の出願時の前から十分了知していたものと推認するに難くなく」(第四丁裏第一六行ないし第一九行)、及び、「中井博は、前記<1>の時期にはすでに、縦糸と横糸の本数を等しくする技術を知つていたことが推認できる。」(第五丁裏第八行ないし第一〇行)との事実を認定した上、本件考案はその実用新案登録出願前に日本国内において公然実施をされた考案であると判断したものであり、なお、大阪高裁の確定判決の認定判断について、「上記認定判断は、メリヤス平編では単位面積内の縦向き糸の本数と横向き糸の本数が当然等しくなるという(中略)証人中井博の証言は措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠がない、という趣旨によるものと解されるにとどまり、しかも前記<1>~<4>の認定は、メリヤス平編では単位面積内の縦向き糸の本数と横向き糸の本数が当然等しくなるという事実認定を前提とするものではない」(第六丁表第三行ないし第一二行)と説示していることが認められる。

三 再審事由<1>について

前掲甲第四号証によれば、前訴訟の判決には、「原告は、大阪高等裁判所昭和五二年(ネ)第四五九号事件について、同裁判所が本件考案はその登録出願前公知公用ではなかつたとの判断に基づいてなした判決が最高裁判所の上告棄却の判決(同裁判所昭和五五年(オ)第二八三号事件)により確定したことを理由として、右判決に基づき本件考案がその登録出願前公知公用であつたとすることはできないとした原告の主張を排斥した審決は、右判決の既判力の範囲を誤認し、又はこれを無視したもので違法であると主張する」(第四五丁裏第八行ないし第四六丁表五行)と記載されていることが認められる。

もつとも、原告は、前訴訟においては大阪高裁の確定判決の認定判断に関する前審決の事実認定は不当である旨を主張したにすぎないと主張するが、単に確定判決の認定判断に関する前審決の事実認定の不当を主張するのみでは前審決の取消事由たり得ないことはいうまでもないところであつて、仮に明示されていなかつたにせよ、原告の右主張の趣旨が、前審決は大阪高裁の確定判決に抵触するとの点にあつたと理解すべきことは当然である。現に、前掲甲第四号証によれば、前訴訟の判決は、大阪高裁の確定判決について、「右判決は、争点である本件考案の保護範囲を判断するため本件考案の構成要素として単位面積当たりの縦向き糸の本数と横向き糸の本数とがほぼ等しいこと等を確定し」(第四八丁裏第七行ないし第一〇行)、「右判決は(中略)メリヤス平編では縦向き糸と横向き糸の本数が当然に等しくなるとの被控訴人らの主張に対し、右糸の本数が必ずしも等しいとは限らず、等しくない場合も多いので、被控訴人らの主張は採用し難いと判示したにすぎないことが明らかである。」(第四九丁裏第四行ないし第五〇丁表第三行)として、前審決の認定判断は大阪高裁の確定判決と抵触するものでないことを説示しているのである。

そして、前訴訟は前審決に対する上訴に該当するというべきであるから、原告主張の再審事由<1>は、実用新案法第四二条第二項の規定によつて準用されている民事訴訟法第四二〇条第一項ただし書の規定に該当する不適法なものであるとした再審審決の判断に、誤りはない。

四 再審事由<2>について

原告は、前審決は証人中井博の供述内容に対する判断を遺脱していると主張する。

しかしながら、前審決において中井博作成に係る証明書及び同人の証人としての供述が最重要の証拠とされたことは、前記の前審決の理由から直ちに明らかである。そして、前掲甲第四号証によれば、この点に関する原告の前訴訟における主張は、「中井博の工場において検品及び包装された審決認定の玉葱袋は、一インチ×一インチの単位面積内における縦向き糸が一三本、横向き糸が一〇本であつてほぼ等しいものではない。しかるに、審決が、右玉葱袋は、右本数がほぼ同数であり、本件考案はその登録出願前公然実施をされた考案であると判断したのは誤りである。また、中井博は、本件考案の登録出願前玉葱袋の編地に関する技術、すなわち縦向き糸の本数と横向き糸の本数を等しくする技術を了知していなかつたから、同人が前記玉葱袋を編成したことをもつて本件考案がその登録出願前に公然実施されたとすることはできない。しかるに、審決が、中井博は右技術を十分了知していたと判断したのは誤りである。」(第八丁裏第一行ないし第九丁表第二行)というものであつたことが認められる。これは、要するに、前記証拠に関する前審決の認定判断の不当をいうものにほかならないが、これを原告は再審請求において、「前審決は、証人中井博の供述内容に対する判断を遺脱している」、すなわち「判断遺脱がある」と主張しているにすぎないのである。そして、これを受けて前訴訟の判決は、第三四頁裏第五行以下において、中井博作成に係る証明書及び同人の証人としての供述内容を詳細に検討していることが認められる。

したがつて、原告主張の再審事由<2>も、実用新案法第四二条第二項の規定によつて準用されている民事訴訟法第四二〇条第一項ただし書の規定に該当する不適法なものであるとした再審審決の判断に、誤りはないというべきである。

五 以上のとおりであるから、原告の再審請求は不適法であつてその補正をすることができないから却下すべきものとした再審審決の認定判断は正当であつて、再審審決に原告主張の違法はない。

よつて、再審審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本件に関する特許庁における手続の経緯は左のとおりである。

原告は、名称を「ポリエチレン糸をメリヤス編して作つた玉葱袋」とする実用新案登録第一〇四九九八七号考案(昭和四〇年一一月一八日実用新案登録出願、昭和四六年一〇月二二日出願公告、昭和四九年八月二二日実用新案権設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権を有していたものである。

被告は、昭和五〇年一二月一九日、本件考案の実用新案登録を無効にすることについて審判を請求し、昭和五〇年審判第一〇九四二号事件として審理された結果、昭和五八年一月二一日、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審決(以下「前審決」という。)がなされた。

原告は、同年四月一四日、前審決に対する訴えを提起し、当庁昭和五八年(行ケ)第五七号審決取消請求事件(以下「前訴訟」という。)として審理された結果、昭和六〇年六月六日、請求棄却の判決がなされたので、上告を提起し、昭和六〇年(行ツ)第一六二号事件として審理された結果、昭和六一年六月一〇日、上告棄却の判決がなされ、前審決は確定した。

そこで、原告は、昭和六二年九月二八日、確定した前審決に対する再審を請求し、昭和六二年再審第七〇〇〇四号事件として審理された結果、平成元年七月一三日、再審請求を却下する旨の審決(以下「再審審決」という。)がなされ、その謄本は同年九月七日原告に送達された。

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